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東京家庭裁判所 昭和36年(家イ)568号 審判

本籍 朝鮮 住所 神奈川県

申立人 大山美子(仮名)

本籍 朝鮮 住所 東京都

相手方 植澣生(仮名)

主文

申立人と相手方との昭和二五年八月一一日東京都港区長の受附にかかる届出による婚姻が無効であることを確認する。

理由

本件申立の要旨は「申立人は日本人であり、相手方は朝鮮の国籍を有する外国人であるが、昭和二五年八月一一日東京都港区長に対し婚姻の届出をし、同日受附けられた。しかし相手方はすでに昭和一二年(西暦一九三七年)一二月二一日朝鮮人の朴公斗と正式に婚姻していた。したがつて、当事者間の婚姻は重婚であつて、当然無効であるから、申立人に関する戸籍記載の訂正を申請するため、主文と同旨の審判を求める。」というにある。

そこで原戸籍謄本、戸籍謄本、婚姻届書および家事審判官の両当事者に対する各審問の結果を綜合すると、次の事実が認められる。すなわち申立人は日本人であつて、昭和二三年ごろ上記肩書のとおりの国籍および本籍を有する外国人たる相手方と事実婚の関係を結び、東京都港区麻布○○町に間借して同棲生活に入り、昭和二五年七月二二日植明子が生まれたので、同年八月一一日同区長に対し、正式に婚姻の届出をし、同日受附けられた。その後も申立人は円満な生活をしていたが、朝鮮人の朴公斗なる者が昭和二六年ごろ相手方の妻であると称して尋ねてきたことから、はじめて相手方に妻のあることを気附いた。真実相手方はすでに昭和一二年(西暦一九三七年)一二月二一日に朴公斗と婚姻していた。

以上の認定事実に照らすと、当事者間の婚姻は重婚である。しかして婚姻の成立要件の準拠法は法例第一三条により各当事者の本国法によるべきところ、重婚は相手方の本国たる朝鮮では、その婚姻届出当時慣習により当然無効(なお大韓民国民法「法律第四七一号、一九六〇年一月一日施行」附則第二条但書参照)であつたのに対し、申立人の本国法たる日本国民法第七四四条では単に取消の原因としているに過ぎない。かかる場合には前者を採用し、重婚は当然無効であると解するのが相当である。

よつて当事者間の婚姻は当然無効であるから、本件の合意を正当と認め、家事審判法第二三条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 軸原寿雄)

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